その一歩が踏み出せないとき/旅と読書
不思議なのは出発が近づくにつれて、どこか落ち着かなくなってくることだ。
こういうとき僕は漠然と不安な気持ちになる。後輩が、合コンの直前ってテンション下がりますよね、と言っていたけどそれに近いかもしれない。
おそらく人は新しい環境に踏み出す時、期待と同じくらいの不安を抱くのだろう。少なくとも僕はそういうタイプだ。
1年生の時にロンドンに行った時は本当に落ち着かなかった。
というのも飛行機が墜落するのではないかというパラノイアに取りつかれてしまったのだ。
19にもなって何と馬鹿馬鹿しい、飛行機事故は交通事故より少ないと自分に言い聞かせていたが当時はなぜかその虚妄から抜け出せず、それは出発前夜にピークに達した。
僕はとうとう遺書を書こうとしたほどである。しかし翌日には僕は世界一面倒くさいと呼ばれるヒースロー空港をしっかり突破し、ロンドンの安ホテルにたどり着いていた。
もう一度当時の心境を思い出してみようとしても、到底無理である。あのときは何があったのだろう、まったく。
さて旅の前に気持ちを高めるには何が一番いいだろう?
だいたい僕は本に頼ることが多い。
定番ではあるが、今度もやはり沢木耕太郎の『深夜特急』を取り出した。
これは沢木耕太郎というノンフィクション・ライターが、26歳の時にバスでユーラシア大陸を横断した話である。
旅は香港から始まり、マレーシア、デリー、アフガニスタン、トルコ、ギリシャ、そしてイタリア、最後はロンドンにたどり着く。
おそらく『深夜特急』よりも壮大な旅をした人はたくさんいるだろうけれど、この人ほど魅力的に旅というものを上手く表現することができる作家を僕は知らない。
異国の新鮮な驚きや興奮、そして失望や落胆。旅する自由さと寂しさ。この本は一人のバックパッカーの優れた記録とも呼べるし、一人の青年の成長を記したメモワールでもある。
つまり観察者として、外に向ける目と内に向ける目のバランスが取れている。世界は『深夜特急』の頃と様変わりしたかもしれないが、<旅を潜り抜けて成長する>というコアの部分でこの本はいつでも普遍的である。
だからこそ多くの若者を世界に送り出す力を、今もこの本は失わないでいられる。
旅行前に不安を感じる人がいるのかどうか知らないけど、そういうときは是非『深夜特急』を手に取って読んでみてほしい。
文句なしにカッコいいし、面白いから。
年若い男子ならますます、旅にあこがれて、奮い立つこと請け合いである。
ちなみに旅行の時は読書をするか? という問題がある。
中学生の頃に読んだエッセイで、旅そのものが読書である、だから本は要らない、というような内容が書かれていて、なるほどなあと思った。
しかし現実的に本は様々な場面で必要になるときがあり、僕はだいたい村上春樹『海辺のカフカ』の英語版を持って行く。
上下巻が一冊にまとめられており、それにもかかわらず軽くて場所を取らず、なにより読みやすくて、何度ページを繰っても新たな発見がある。
いつか京都で雨に打たれたおかげで、あの本はボロボロになってしまったが、愛着がある。
むかし秋保にキャンプに行った帰りのバスで、外国人が『カラマーゾフの兄弟』を読んでいたけど、色んな意味であれは重すぎる。
まあそんなに難しく考える必要は全くないのだけれど、旅行の時に持っていく本というのはかなり限定される気がする。
ちなみに沢木耕太郎は『李賀詩選』を持って行ったそうだ。こないだ本屋で偶然見つけたので、ついつい買ってしまった。
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今日の仙台は久しぶりに、冷たい雨が降りそぼっている。
夜はテニス部の新歓ということで、久々に出動してきます。どんな一年生が来るのか楽しみだ。
楽しく酒を飲んで酔っ払うためにも、溜まった勉強を片づけておかないとなあ。