星に帰る
Coldplayに『The Scientist』という曲がある。
なかなか素敵な歌なのだが、最初にこれを聴いたとき
I'm goin' back to the star
というフレーズが出てきて、なんと幻想的な歌なんだろうと思い、惚れ惚れした記憶がある。
恋人との気持ちが通じ合わなくなった男は、とうとう星に帰ることに決めたのだ…。
などと勝手にそういう風に解釈して、そのまま納得していた。
しかしいくらColdplayといえども、前後のコンテクストからして星が出てくるのはあまりにぶっ飛んでいたように思えたので、歌詞検索をしてみたら
I'm goin' back to the start
ということだった。なんのことはない、startのtが聞こえなかっただけなのだ。始めからやり直そう。そういう意味だ、多分。
これを知った時いささかがっかりした。だって星に帰った方が、インパクトが10倍くらい違うじゃないか。
ついでだけど、この歌はこないだ友人に連れて行ってもらったフジロックで生で聴いた。いやー、あれはよかったですね。
さすがにあれを聴いた後は、starの方がいいのになどとはもう思わなくなった。
あのときはとにかく大粒の雨が降っていて、ヴォーカルのクリス・マーティンが「大丈夫?」と心配してくれたが、あれは楽しいライブだった。
無数のカラフルな風船が降って来たりしてね。さすがはColdplayである。
個人的にはLovers in Japanも演奏してほしかった…。
これを聴くといつも、ソフィア・コッポラの映画『Lost in translation』を思い出す。そういえばあの映画のサントラも結構いい…などと話し始めるときりがないのでこの辺でやめておこう。
まあそれはともかく、星の話に戻ろう。僕は星なんて全然眺めないし別に好きでもない。
けれど小説とか詩に星が出てくると、その瞬間になんだか視点が一気に広がる気がして結構好きだ。
ドストエフスキーの小説『カラマーゾフの兄弟』で、スーツを着た悪魔と神経症にかかったイワンが議論する場面がある。
聖書によればかつて悪魔は砂漠とかで聖人を誘惑していたのだけれど、それについて悪魔が『ああいった聖人たちは、ひょっとすると星座ひとつほどの価値がありますからねえ』といったことを言う。でも今は時代が変わっちゃったから、こういうちゃんとした服装をしているんだよ、みたいな愚痴も言う。
ドストエフスキーはときどきこんな風に、随所に幻想的な表現をさらりと使う。『認識の頂点』だとか『稲妻と轟音と共に天使が舞い降りて、ホサナを歌う』とかね。
あるいはドストエフスキーの信仰したキリスト教がそういう世界観を含んでいるというだけかもしれないが、だとしてもああいうマテリアルの使い方が上手い。
とにもかくにも、こういうアクセントが効いたセリフが結構好きである。
星と言えばradioheadの曲に『Black Star』というのがある。
全部あの黒い星が悪いんだ…といった歌である。
詩は中々陰鬱なんだけど、そのメロディにはどこか爽やかさというか、あるいは開き直ってしまった絶望というか、もう歌にするしかないやるせなさのような色々が含まれている…気がする。
そのビターな雰囲気が心地よくて、これも去年恐ろしいほどの回数聴いた。
Blame it on the black star
Blame it on the falling sky
Blame it on the satellite that beams me home
うーん、いいですね。