やや改善した印象(2日目 その2)

「ここかあ」
誰が言うともなく、ため息が出てきた。B&B al filalmonico。
案内された部屋にはソファが一つ、エキストラベッドが一つ…そして、中央にダブルベッドが一つ。
我々は一瞬凍りついた。

We are all men, not gay.
出発前の仙台で、インターネットで次々とトリプルルームを予約し続けた際に、誰かが冗談めかして言った台詞だ。
もしやダブルが用意されるなどということはあるまいな、と恐れていたが、全員の性別を書き込んで転送したのだから問題は無いだろうと高をくくっていた。
無情にも我々の思いは裏切られたのである。
だがこれはジャンケンで負けたA藤くんがソファで寝るということであっさり解決された。

それにしても我々を疲れさせたのはホテルまでの道のりである。
地図によればどう考えてもここにしかないはずのアパートに、そのホテルはなかった。
唯一filalmonicoと名の付けられた建物は、あまりにボロく、そしてシャッターが閉まっていた。
これじゃ無いはずだ、という心からの悲痛な願いが我々を歩かせる。
アレーナもジュリエットの家も我々の目には入らなかった。
ガラガラガラガラと、スーツケースを引きずり倒す。

そうこうしているうちに、大粒の雨が降ってくる。
インフォメーションセンターに聞いても、ここにあるとの一点張りである。
仕方が無いので、スーパーに駆け込み、従業員のおじさんにモンキーが道を尋ねる。
すると、おじさんはわざわざ外に出てくれて、隣の隣のアパートの前まで我々を連れて行く。
疲労はすでにピークを迎えんとしていた。
ここで決めてくれ!おっさん!

「ここだよ」
指差したその携帯電話ほどのサイズの表札に、小さく小さくal filalmonico.と書かれていたのだった。最後の力を振り絞ってインターホンのボタンを押す。
管理人のおばさんが出てきて笑いながらこう言った。
「この辺りをグルグル回っていたでしょう」
見てたのかよ…。

さて部屋でしばらく休憩したら、昼飯を食っていない事に気がついた。
A藤くんはマックを買いに出かけて帰ってくる。しかし値段はなんと9ユーロ。
マックは一応どの街にもあるのだが、それでもピッツァやジェラートに比べたら遥かに高級食である。
まあピッツェリアやジェラテリアはその4倍くらいはある。
コンビニ並みにある。
しかも殆どの店が休んでいる日曜日ですら、孤独に店を開けてジェラートを作り続ける。
イタリア人はジェラートが無いと死んでしまうのでは無いかとすら思える。

さて、お裾分けしてもらったグランデサイズのポテトを皆でぽりぽり食う。
あまりの疲れに誰もがあと少しでイタリアを憎み始めるところだったが、ようやく気を取り直して街へ行く。
イタリアの夜は長い。16時くらいだが、まだまだ日は沈まないのだ。

我々は賑やかな通りをウィンドウショッピングしながらぶらぶらと流す。
すると広場に出る。どうでもいいことだが、広場はPiazzaといい、通りはviaである。
イタリアでは本当に数多くの広場がある。
広場があればだいたい教会があり、偉い人の銅像があり、ブランド店が軒を連ね、カフェで人々がのんびり過ごし、土産物屋が胡散臭いブツを売りつける。

昔は昔で革命だなんだとここに人が集まっているし、今でも人々は目的は違えど同じ場所に集って同じ時間を共有している。
イタリアの人々は、石造りの歴史の中で今でも生活し、文化を育てることができる。
多くの建築物が壊れてしまう木造の文化と比べたら、それはとても羨ましい事の様な気がした。

我々は広場を抜け、川に出る。
向こう岸にはテアトロ・ロマーノというローマ時代の劇場が浮かぶ。
それを背に進むと、ドゥオモすなわち聖堂が現れる。
すでにお祈りが始まっていた。ここでセーブできそうだ。
窓から差し込む光が十字架像を照らしている。僕は結構教会建築が好きである。教会という総合芸術。ちなみに磔刑の絵などををcrossifineと呼ぶらしい。受難はPassionだったかな。

帰りにジェラテリアジェラートを食べる。
一盛りを1palliloなどという。値段はまちまちだが、だいたい1.2ユーロくらいである。ダブルにするろ2ユーロちょいとられる。A藤くんはレモン味を注文し続け、やがて各地のリモーネ・ジェラート・ランクなるものをつけ始めた。サッパリしているのでオススメである。ヨーグルトも結構いい。チョコとかバニラはこの暑さでは、あまりに甘すぎる。
ちなみに僕は初めて見るような名前の味を試し続けているが、これはというモノはまだ見つからない。やはりレモン味が鉄板だろう。

我々はジェラートとピッツァくらいならビビらないで注文できるようになってきた。
というか毎日暑いので、地元の人々が美味そうに食べてるってのもあるけど、まあ食べざるを得ないのだ。
帰りは例によってピッツェリアで適当に見繕う。
フォカッチャをピザのようなものにしたのもあれば、モッツァレラチーズをふんだんに乗せたモノもある。会計の時に適当に頼んだ四角形の小さなパイ生地のサクサクした包み焼きが、とくに美味しかった。中には、ほうれん草のクリーム煮みたいなモノが入っている。
店のおっさんが愛想良くしてくれて、僕たちも少々ほっこりする。

モレッティというビールは日本で飲んだ時はたいしてうまくないと思っていたのだが、なかなかどうしてこれ以上のビールは無いと思う。イタリアの気候と料理に凄く適している。もちろんワインも美味いのだが、ビールもいい。

やがて風呂に入る。共用だが、他の客がまだ帰ってきていないようなので一番乗りである。
しかし毎回思うのだが、硬水はなかなか泡立たないので、結構こまる。
それから風呂の中で下着を洗濯する。手洗いも時にはいいモノである。

こんな風ヴェローナの初日が終わった。
明日は一日ヴェローナで過ごすので、もう少しゆっくり観光できる。
なんだか最初は散々だったが、何時の間にかこの街に好印象を抱いているのだった。