多機能ナイフ(1日目 その3)

食後はスフォルツァ城へとのんびり歩き出す。
ここはレオナルドが天井画を描き、ミケランジェロの4体目のピエタが置いてある。
緑の雑草で覆い尽くされた巨大な城の堀には、カタパルトに使われた投石がいまだに積み上げてあった。

ミケランジェロピエタで最も有名なものは、バチカンに飾られている。
あれは彼が26歳の時に創作した、始めてのピエタである。
しかしここにある4体目のピエタは、そもそも未完成である。
崩れ落ちるイエスを抱きかかえるマリア。
いまだ石の中に閉じ込められていて、目覚めを待っているような感じである。
僕はわりとこのピエタが好きだ。なんだか人間味があって。

スフォルツァ城を抜けると公園がある。
今日は非常に日差しが強くて暖かいので、芝生の上で上半身裸で寝転んでいる人たちがちらほらいる。
そして走っている人も多い。皇居ランみたいな感じかもしれない。つまり城ラン。

あまりに暑いので、我慢しきれずモンキーと僕は露店で水を買う。
ノンガスのミネラルウォーターで1.2ユーロ。のちにこれよりもっと安く買えることを知る。
水を飲みながら日影で休憩を取る。暑いので羽織っていたシャツを脱ぐ。

この後は自由行動ということになり、15時に一旦ホテルに集合ということになった。

さて夕飯である。今日は地元スーパーで酒とつまみを買い、部屋で酒盛りする。
ワインはキャンティ・クラシコが4.9ユーロくらい。
アンティパストと書かれた生ハムとチーズの盛り合わせが2ユーロくらい。
そしてNuttela and go!というお菓子を見つける。
円柱型のプラスチックのトレイが三分割されていて、中にはNuttelaとスティックと甘ったるいレモンジュースが入っている。スティックをディップして、ポッキーみたいにして食べる。そしてジュースも飲めるという。優れものなのかなんなのか、不思議な商品だ。

主食はホテルから歩いて5分くらいの場所にあるピザ屋でテイクアウトする。
ピザの直径は50センチくらい。注文を受けて、その場で釜に入れて焼く。
3、4分すると焼きあがり、それをザクザクとナイフで切り分けて袋詰めし、ホチキスで留める。
アバンダンテ、つまり一番大きいサイズで5ユーロ。50センチピザの1/4ほどの大きさである。
厚い生地にたっぷりトマトと肉厚のチーズが乗っている。
まだ熱く、いい匂いをさせるその袋を抱えて、夕暮れるミラノの街を歩いてホテルに戻る。
ここでは日が暮れ始めるのはだいたい8時過ぎである。なんだか時間の感覚がおかしくなる。

さて仕度は整った。
何処までも用意周到なモンキー氏が、割り箸と紙コップを机に並べる。
「これも食べてしまいますか」
彼が取り出したのは、なんとお湯で作る海老チャーハンだった。
「なぜこんなものがイタリアに?」
「これは非常食です」大真面目に説明される。

モンキーが日本から持ってきたvictrinoxのナイフのコルク抜きを使って、ワインを開ける。
多機能ナイフは一つあると便利かもしれない。
ワインを開ける時はもちろん、栓抜き、缶切り、とくに果物の皮を剥いたり、何かを切り分ける時に重宝している。

ワインは非常に飲み口が良くて、いくらでも飲める様な気になってくる。
生ハムは買ったはいいものの、生肉を怖がって誰も手を付けようとしなかった。
しかしピザはペロリと平らげられてしまったので、生ハムもいずれ我々の胃袋に詰め込まれてしまった。

とりあえず一日目はこれにて終了。
明日はヴェローナへ向かう。