珈琲つきの朝食
地震の夢を見た。僕はベッドで寝ていて、そのうち収まるだろうと目をつぶっていたが、揺れはますます大きくなるばかりだ。
次第にいろんなものが落ちてくる音が聞こえる。そのうち部屋全体が傾いて、僕はベッドから落ちそうになる。
と思ったら目が覚めた。電話が鳴っていた。
昨夜は3時まで起きていたせいで、起床が遅くなってしまった。
今日は車で実家まで帰らなければならない。来週から2週間、地元の病院のERで実習である。
昨夜からずっと珈琲が飲みたかった。ここのところ、珈琲を飲んでいなかった気がするからだ。
しばらくまともに朝食をとってなかったから、今日くらいはちゃんとしたものを食べよう。珈琲つきのやつ。
僕は近所の喫茶店を思い浮かべた。そこは朝9時から始まっていて、モーニングセットなるものを出してくれる。
マフィンかトーストが選べる。ブルーベリーとオレンジピールのジャム。そして美味い珈琲。ちなみに本もたくさん置いてある。
どうでもいいが、いつかあの店でthe smith のmeet is murderが流れていて感動した。
そこで朝飯を食べよう。それで村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』を持って行って、五反田君がキキを殺したと告白し、マセラティと共に海に沈むシーンを読もうと思った。
眠くなると悪いから、昼飯は抜く。その代わりに朝飯はしっかり取るのだ。
5分かけて自転車の鍵を探したけれど見つからなかった。仕方ないから5分かけて歩いてその店まで行った。
『震災の影響で、営業時間を変更しております。11時〜20時』
僕は肩を落とした。
気を取り直して、メディアテークのバーまで歩いた。しかし出しているのはドリンクメニューだけだった。フードはあと30分くらいしないとオーダーできないらしい。
この間の大震災で、仙台市の飲食店の営業時間は大分変ってしまった。
少し悩んだが――腹が減っていたのもあるけど――信号を渡ったところにあるモスバーガーに入った。
珈琲は好みじゃないけれど、たっぷり量がある。もう、この際ぶつぶつ言うのは止そう。
となりの法学部の学生5人がクラスメートの女の子について語っていた。楽しそうである。
僕はちゃんとモスバーガーを食べて、やや薄い珈琲を飲みながら『ダンス・ダンス・ダンス』を読んだ。
『ノルウェイの森』と『ねじまき鳥クロニクル』の間の長編小説。時系列的な視点で読むと『ダンス・ダンス・ダンス』では、やがて書かれるであろう長編小説の世界観を予感させた。それにドライブ感がある。これはきっと、村上春樹が初めてワードプロセッサーで書いた小説だからじゃないかなと僕は思っている。
そんなわけで一応ゆっくり珈琲を飲んでゆっくり本を読むという儀式を済ませることができた。
エンジンがかかったので、これからスーツケースに荷物を詰め込もう。