イタリアが現れた(移動日)

移動日である。

成田からミュンヘンまで12時間のフライト。『英国王のスピーチ』がやっていて、また観てしまった。劇場のを合わせてこれで二回目である。何故だか訳が微妙に変わっていて、それはそれで面白かった。
ヨーロッパまで行くのは、長時間で本当に大変だったのだけど今回はそれほど苦痛ではなかった。
たぶんビールとハーゲンダッツのサービスのおかげだろう。
万難を排して非常口前の席を獲得したモンキーは、マイまくらを首にはめて心地よさそうにPSPに興じておられた。

その後ミュンヘンで2時間ほど時間を潰してから、マルペンサ空港まで1時間ほどのフライト。
ミュンヘンに降り立つや否や、冷静沈着を信条とするモンキーの行動に異変が起こる。
「私の故郷!」
トランジットの手続きを済ませると、モンキーはすかさず回転扉を開けて外に出て、ミュンヘンの空気を胸いっぱい吸った。
「血中のヘモグロビンを全てミュンヘンの酸素で飽和させてしまいたい」
なんというか、凄くわかりにくい喜びの表現である。

その後しばし自由時間を取る。
A藤くん、もといフェイス氏はミュンヘンで絵葉書を買い、ミラノで投函しようと言っていた。とてもいいアイディアだと思った。
モンキーはなにやらドイツ語の科学雑誌を購入し嬉しそうに微笑んでいた。神経伝達物質かはたまた免疫系のトピックスを話題にした雑誌のようだった。
それをいつどのようにして読むのだという疑問はさておき、ドイツといったらビールとソーセージである。
我々は辿々しいコミュニケーションでなんとかソーセージとビールを購入した。
焼いたソーセージにケチャップとカレー粉をかけたもの、白パン、それとエルディンガー。占めて4.2ユーロ。この量でこの値段は安い。
青空のもと、ドイツ流の休憩を取る。

そこで更なる異変が起こる。長旅の影響か、酒を身体に入れたモンキーとフェイスが酩酊してしまったのだ。
なにやら不気味な多幸感に包まれたらしい二人。楽しそうなおしゃべりに興じている。
搭乗まであと数十分に迫っていたせいもあり、僕は少し不安に思ったが、我々は間違えずにマルペンサ行の飛行機に乗ることができた。
スイス行のやつじゃなくてよかった。

さてミラノに到着した。ミュンヘンから大体一時間くらい。到着したのは現地時間で8時ほどだが、空はまだ明るい。
マルペンサ空港からは20分おきにバスが出ているので、それに乗る。7.5ユーロ。
運転手のおっさんが、これでいいんか?と迷っている僕らを見てこう言う、「ナナテンゴユーロ」
非常にわかりやすい。トランクを乗せ、我々も乗る。
バスは非常に混んでいる。誰もが携帯電話で、大声で喋くっている。さらに立ち込める様々な香水の匂い。
バスは次々と自家用車を追い越して行く。一体時速何キロ出てるんだ?
窓の景色を眺めていると、街が近づいているのがわかる。
50分ほどすると、ミラノ中央駅に到着する。噂が正しいとすれば夜のミラノ中央駅の治安は新宿よりもちょっと危ない。
予約していたホテルまでは、Googlemapによれば徒歩20分くらい。
最初はビビってタクシーを考えていた我々だったが、外の明るさに気を良くして決断を覆した。
「歩こう」
誰が言い出したのか(たぶん僕だ)、とりあえず我々はトランクをガラガラと引きずり、旅行者よろしく歩き始めた。
ホテルまでは中央駅から道一本である。
ムッとする空気と、熱心に声をかけてくる(ニーハオ!)トラットリアのおっさん、やってんだかやってないんだかよく分からん、ガランとしたケバブ屋。
石畳にトランクのタイヤよ耐えてくれと願いながら、われわれはついにホテルに到着した。
ホッと一息、である。時刻は夜の10時半。さすがにミラノも闇に包まれた。

この後フロントでジャパニーズイングリッシュとイタリアンイングリッシュの非常に疲れたコミュニケーションがあったのだが、

まあそういうのを乗り越えて、

われわれはようやくフカフカのベッドに身を横たえる事ができたのだった。