文学は救いになりうるか

こないだ麻酔科医室で医学雑誌をぱらぱらと読んでいたら、book reviewというページで『われらはみなアイヒマンの息子』という本が紹介されていた。

はっとさせられたのは、その本の内容というよりもむしろ、筆者の文章の明快さと清々しさだった。

筆者は書評というよりも、同じ過ちを繰り返す人類へ問題提起をしていた。

そして文章は、凛とした気品を漂わせ、文句なしに素晴らしかった。

読み終えたとき、一筋の光が差しこんできた気分がした。





まあたかが本の書評である。たしかに。

でもその文体は、書かれている内容よりも多くのことを、雄弁に語っていたように思える。人間性への信頼、あるいは歴史というものについて。

よく考えられた良質な文章は、美しい音楽と同様に、魂の滋養になりうる。

あるいは文学とは我々の日常とは遠く離れた場所にあるかもしれない。

だが文学の豊穣な世界は、いつでも誰にも扉を開いている。その気になれば、我々はいつだってそこにアクセスできる。

たとえどんなに忙しくなったとしても、その事実は忘れないでおこう。

文学は救いになりうるか? 多分答えはイエスだと思う。